憑依してGO! その7



「お待たせいたしました」

店員が俺たちのテーブルに酒を運んできた。
おっ、うまそうな生だ!
と、ビールグラスは俺の目の前を通過して男性陣に振り分けられた。
代わりに俺の前にはチューハイが置かれた。
チッ、まぁしょうがないか。
今の俺は女性陣だからな。


「ねぇ、沙織ちゃんってどこの大学なの?」

左隣にグラスを渡すついでに聞いてみた。

「はい、□△女子大です」

へ~ □△女子大って言えば金持ちや名家の令嬢が通う名門校じゃないか。
どうりでどこか気品を感じたわけだ。
きっと親も金持ちなんだろうなぁ。

と、右腕に痛みがする。
振り向くと、マヤがひじで俺を小突いている。

「ねぇ、もう沙織さんのことはいいからさ。合コンに集中しなよ」

マヤが耳元でささやく。
本当はもっと沙織ちゃんといっぱいしゃべりたかったが、怪しまれるといろいろ面倒だ。
俺は正面に向き直り、イスを少し引き、姿勢を正した。
そして、男性陣を見渡した。

一番左に座ってる眼鏡の背の高いのがたしか弁護士を目指してる大学院に通ってる男だっけか。
で、俺の正面のパーカー着てけだるそうにしてるのが、どっかのクラブでDJやってる男だっけか。
そして、一番右の紺のスーツ着てるのが幹事の健二と。

はぁ~ 何も感じない。
ってかなんで俺が男とくっつかないといけないんだよ!!


場は健二がテーブルに両ひじを突き、やや身を乗り出してしゃべっていた。

「でさ~ 生活指導の矢島に大目玉くらってさ~」

ん?生活指導の矢島といったら、俺の高校時代と同じじゃないか。

「それで、帰りにツレと一緒にやつの車のボンネットに乗って立ちションかけてやったのさ」

「ギャハハ!マジで~!!」

マヤが会話に入ってきやすくするためにか過剰に笑う。
ってかそのツレって俺だ!
まさかこいつ戸山健二か!!


戸山健二は俺が高校の3年間同じクラスだったやつだ。
親友というわけではないが、知り合いというわけでもない。
高校という檻の中で暇を持て余した俺たちは、エロ本を貸し合ったりいたずらしたりよく一緒にくだらないことやった。

それは高校二年の夏。
昼休み、健二と一緒にブラブラしていると、片付けのために体育倉庫の中の道具が外に出されていた。
期末試験が終わり、あとは夏休みを残すだけという解放的な気分も相まって、俺と健二はカラーコーンを並べバレーボールでボーリングをしたり、とび箱をどこまでうず高く積めるか挑戦した。

が、運の悪いことにたまたま通りかかった生活指導の矢島に見つかり、こっぴどく叱られ、放課後陽が暮れるまで、代わりに体育倉庫の掃除をさせられた。
掃除中も怒鳴られ続け、完全にキレた俺たちは、今思うと若気の至りだが、帰りに矢島の車のボンネットに乗って小便かけてやった。


間違いない、こいつ戸山健二だ。
髪を茶色に染め立て、スーツに身を包んでいたので全然気づかなかった。
だが、顔だけよく見れば大きい目といい、厚い唇といい、健二そのものだ。
あの会ったときの「ウッス」で気づくべきだった。

卒業後、健二は「一旗あげる」と言って街を出て行ったが、戻ってきていたのか。
それにしてもまさかこんなところで再会するとはな。
俺は吹き出しそうになるのを必死にこらえた。


「で、そのツレってどんな人だったの~?」

俺はわざと甘ったるい声で健二に聞いた。

「あぁ、変わったやつだったよ」

「なんだと!?」

「お、おいおい、なんでお前が怒るんだよ」

「あ、ううん、なんでもない」

俺の笑顔は引きつっていた…と思う。


「でも、悪いやつじゃなかったぜ」

健二が付け加えた。
健二…
そうか、俺たちの友情はまだ生きてたんだな…

よ~し、ここは昔のよしみだ。
健二に一花持たせてやるか。


と、マヤが突然立ち上がった。

「ちょっとトイレ行ってくるね」

「あぁ」

「どうぞどうぞ」

男性陣が答える。

「行こっ」

マヤが俺の袖をつまみ上げた。
俺と沙織ちゃんはマヤの雰囲気に圧され、立ち上がった。
そして三人で女子トイレに向かった。
なるほど、作戦タイムってやつか。


「どう?今のところ?」

女子トイレに入るなり、マヤが振り返った。

「えっ…」

沙織ちゃんが右手を胸の前に当て戸惑う。

「沙織さん、誰が気になる?」

「私はえっと…」

「持永君のこと気になってるでしょ?」

「えっ… あっ… その…」

持永っていうと、あの弁護士目指してる大学院生か。
そういえば、俺の隣で沙織ちゃんと話してたな。
たどたどしくて合コンというよりはお見合いみたいな雰囲気だったが。

「でも、健二が沙織さんのこと狙ってるよ」

「えっ…」

再び戸惑う沙織ちゃん。
戸惑う姿もかわいい。

言われてみれば、健二はちらちら沙織ちゃんのほうを見ていたな。
それにしてもこのマヤって女すごいな。
持永のことも健二のことも言われるまで全然気づかなかったぜ。
さすが本物の女の勘というか、踏んできた場数が違うんだろう。


「ルミは誰狙い?」

と、今度は俺に話を振ってきてた。

「私は…健二かなぁ」

「はぁ!?何言ってんのあんた!?」

マヤの目と口がありえないという具合に見開いた。

「今日のあんた絶対おかしいよ!! なんか来た時からいつもと雰囲気違うってかさ」

「そ、そんなことないよ」

「ウソ!ノリ悪いし。まるで別人みたい!」

やべぇ… 思いっきり怪しまれてる……
うまく演じたつもりだったが… こいつこの体のマブダチだからさすがにバレたか…


「マヤさん、そんな風に言わなくても… きっと今日は調子が悪かったんですよね?」

「あ、ううん… まぁ…」

こんな時でも俺をかばってくれるなんて沙織ちゃんはやさしいなぁ。
が、状況がヤバいのは変わりない。
マヤはこちらを怪訝そうな目でにらんでいる。
まるで「お前は誰だ」という目で。


どうする!?考えるんだ俺!!
俺と健二は沙織ちゃん狙いだが、俺は別に健二とくっついてもいい。
沙織ちゃんと持永は両想いなのか?
この複雑な連立方程式を解くには…

そうだ!俺が沙織ちゃんに乗り移ればいいんだ!!
そうすれば健二は沙織ちゃんとくっつくことができる!
俺も沙織ちゃんの体を味わえるし、沙織ちゃんの意識は眠ってしまうので持永は関係なくなる。
それに、沙織ちゃんとはみんな初対面だから多少変な行動取っても怪しまれないだろう。


そうと決まれば善は急げだ。
俺は瑠美の体から抜けた。
バタッと鈍い音がし、瑠美が床に倒れた。

「どうしたのルミ!?」

「瑠美さん!?」

突然の出来事に、驚く二人。

「しっかりしてよルミ!!」

「しっかりしてください!!やっぱりどこか調子が悪かったんですね…」

白目を向いて倒れている瑠美を揺り動かすマヤと、それを心配そうに見つめる沙織ちゃん。
俺はその様子を個室の扉の上から見下ろしていた。
ちょっと顔を上げれば、すぐ鼻の先に天井がある。

ついさっきまで俺がはいていた白いミニスカートはまくれ、髪は海草のように床に広がってしまっている。
こうして上から見ると、瑠美ってこの中で一番巨乳だったんだな。
ちょっと惜しいことをしたか。


「ルミ起きてってば!!ダメ…全然起きない……」

「私、店員さん呼んできます!!」

そんなことさせないよ♪

俺は走り出そうとする沙織ちゃんの背中に飛び込んだ。

「あっ!!」



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「あれ…あたしなんで…」

「ルミ!!」

目の前に瑠美を介抱しているマヤの姿が映る。

「マヤ… ってか、ココどこ?」

「はぁ?トイレに決まってるじゃん」

「なんであたしここにいるの?」

「あんたほんとに大丈夫!?自分でここまで来たんじゃない!」

「あれ?そうだっけ…?」


へへっ、こいつがバカで助かったぜ。

「心配掛けてごめんね沙織さん」

マヤが振り返って俺に話しかけてきた。

「いえ、いいんです」

俺は沙織ちゃん風に答えた。

「ほら、あんたも謝りなよ」

「ご、ごめんなさい」

瑠美は上目遣いで二度軽く頭を下げた。
が、目はキョロキョロしており、あきらかに戸惑っていた。
それもそのはず、ほんとは瑠美は沙織ちゃんとは初対面なのだが、それを言うとまたマヤに怒られそうなので、何もわからず頭を下げてるんだろう。

「いいえ、お気になさらずに」

俺は肩両手をスカートの前で合わせ、にっこり微笑んだ。
そうだ、そのまま気にしなきゃいいんだよ。



「じゃあそろそろ戻ろうか」

「はい」

マヤと瑠美が先に女子トイレを出る。
俺もその後を追って出た。

「おっかしいな~」

瑠美は髪をいじりながらしきりに不思議がっている。
無理もない、俺に乗り移られている間は意識がなかったんだもんな。
いきなり大学の女子トイレから居酒屋のトイレにワープし、数時間経っていたわけだ。
まぁ、女性専用車両で中学生に痴漢した記憶がないのは幸いだろう。


さてと、今回はゆっくり体を詮索する暇がないので、こうして廊下を歩いてるうちに体の感触を確かめなければ…
まず、股に密着感を感じる。
黒タイツをはいてるからか。

ひざから下はブーツに覆われ、歩くたびにカツカツという靴音と、黒タイツに包まれた足裏がブーツの底とこすれて妙に気持ちいい。
足先から腰まで衣服に覆われているので、歩いていても自分の体という実感がわかない。
まるで下半身が別人のようだ。
実際別人なのだが。


腰には大きなピンクのリボンのベルト。
触ってみると、クシュクシュした感触とつるつるした感触を同時に覚えた。
首元のひんやりした感触は高そうなネックレスか。

髪は腰まで伸びており、耳にかかってるので、やや音がこもる。
それと、さっきの瑠美のタートルネックとは違い、首元が開いてるので、歩くたびに髪が小さなほうきのように揺れて、くすぐったい。
今日乗り移った女の中では、二番目に乗り移った梨穂ちゃんに一番近いか。

シンプルだった瑠美の服に比べると、重ね着したり、タイツやベルトで体を押さえつけているので窮屈だ。
だが、女はこうやってちょっと我慢して着飾るぐらいがいい。
それを一枚一枚はがしていくのも男の甲斐性だ。


ん?なんか歯と歯の間に挟まっている。
俺がさっき沙織ちゃんに勧めた焼き鳥か。

さ~て、食われに行くか

俺は舌で焼き鳥をつまみ出すと、口の中で一回転させ、ゆっくりと呑み込んだ。