あら?
俺はハンターだ。
いや、正確にはハンター“だった”。
一週間前、狩りの最中に背後からブルファンゴに突撃され、打ちどころが悪く、そのままオダブツになっちまった。
だが、この世に未練があったのだろうか。
気が付いたら成仏できず、幽体になり空中にぷかぷか浮いていた。
俺には嫁も子供もいないし、むしろこの世に未練がないからハンター業をやっていたのだが…
なっちまったものは仕方ない。
俺は一週間ぶりにタンジアの港に戻ってきた。
いつもと変わらぬ活気あふれる港。
ただ、唯一違うのは、誰にも俺の姿が見えていないということだった。
やはり俺は死んでしまったのか?
俺はギルドの記録を見ようとギルドカウンターに近づいた。
カウンターの上にはハンターへの依頼や記録などを記した書類がある。
それを読めば俺のことも載っているはずだ。
ちょうど受付嬢も席を外しているので怪しまれないだろう。
俺は書類に手を伸ばしめくろうとした。
だが、あっさりすり抜けてしまった。
「ちくしょう…やっぱり幽体じゃ無理か」
幽体だと物体をすり抜けてしまうのだ。
その時、ちょうど受付嬢が戻ってきた。
「~♪」
鼻歌まじりに上機嫌だった。
口元に食べ残しがついてるのを見ると、昼食に行ってきたのだろう。
「ちょっとかわいそうだけどあの子の体を借りよう…」
俺は彼女の背中に飛び込んだ。
「あら?」
受付嬢の体が小刻みに揺れる。
意識が遠くなり、体がとろけるような感触が襲ってきた。
「んっ…」
冷静に周囲の状況を見渡してみる。
目の前にはカウンターがあり、ギルドの書類が置かれていた。
その先にはアイルーの運営する食堂。
左前方にはギルド爺さんがカウンターに座っていた。
ゆっくりと視線を下に下ろすと…
そこにはさっきの受付嬢がいた。
いや、いたというより、俺の体になっていた。
さっき見ていたセーラー風の制服を俺が着ていたのだ。
ちょっと恥ずかしい…///
だが、周囲の誰も俺を怪しい目で見ていなかった。
そりゃそうか、見た目は正真正銘受付嬢だもんな。
そうだ!俺の記録は…
俺は目の前の書類をパラパラめくった。
『…名誉の殉職。ギルドで埋葬する』
そこには一週間前の日付と俺の死が書かれていた。
やっぱり俺は死んでしまったのか…
わかっていたけど、実際に他人の言葉で目にすると、それが実感として湧いて胸が締めるような切なさを覚えた。
「よぉ、キャシー!」
いきなり話しかけられて顔を上げると、目の前に大男がいた。
「どうしたんだい?シケた顔して」
あ!こいつは!!
俺と同じハンターだ。
一度俺が酒場で飲んできたら、酔っ払った勢いでこいつが絡んできて殴り合いの喧嘩になったんだ。
「へへっ、今日もかわいいねぇ~」
く、臭い… 思わず鼻をつまみそうになった。
こいつ昼間っから酒飲んでやがる。
しかも俺に対してデレデレした笑いを浮かべて気持ち悪い……
「あ、あら、こんにちは」
とりあえず俺はすべての感情を抑え、受付嬢のフリをしてあいさつした。
「なんかおすすめのクエストあるかい?」
「お、おすすめのクエストですか…」
俺は適当に書類をめくった。
あ、ちょうどいいのがあった。
「これなんてオススメですが」
「おう、これかい。よっしゃ行ってくるぜ!!」
「いってらっしゃ~い♪」
ってバーカ。
難関クエストで報酬低いやつのに。
モンスターにやられて頭冷やしてしてこい。
あ~ 受付嬢って結構楽しいなぁ♪
「ん~~ おぉっ!?」
気分転換に腕を思いっきり伸ばし、ふと後ろを振り向くと、目の前にこんがり肉が飛び込んできた。
よく見ると、それは銅鑼ガールの絶対領域だった。
ぷにっとニーソとスカートの間から弾け出した絶対領域がまぶしい。
しかもそれがちょうど目線の高さ、目と鼻の先にある。
「や、やばい…///」
心臓がバクバクしてきた。
触りたい…触りたい…
女の子同士のスキンシップとか言って触っちゃおうかな…///
いや、待てよ…
よく考えたらもっと身近な場所に絶対領域があるじゃないか!!
しかもいくら触っても怒られない!
それは自分の…絶対領域!!
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!!!!!!!!!!」
俺は激しく自分の絶対領域をこすった。
すると摩擦でたちまち火がつき、カウンターに燃え移った。
俺たちの狩りはまだ始まったばかりだ!!
(おわり)
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