『憑依警察24時』 その3



呼び出し音を聞いて、杉川が動き出した。
ホールを出て、こちらに近づいてくる。
俺にはその一歩一歩がとても長い時間に思えた。

ふと、家族の顔が浮かんだ。
やさしい妻とかわいい娘。
家族には俺が憑依刑事ということは隠して、普通の刑事ということにしている。

ほんとは今日は5才になる娘の誕生日なのだ。
早く家に帰って一緒に祝いたいのだが…こんな日に限って犯人が現れるとは…
娘のためにも、街のためにも、早く杉川を捕まえなければ……


「ご注文をお伺いします」

俺のテーブルにウェイトレス姿の杉川がやってきた。
なまじかわいいだけに、かわいさ余って憎さ百倍だ。
俺は悟られないようにメニューに目を落とした。

「ハンバーグセットをお願いします」

「はい、ハンバーグセットですね」

杉川は手に持った端末にオーダーを打ち込もうとする。
今だ!!
俺は素早く立ち上がると同時に、パンツスーツのポケットから憑依手錠を取り出し、杉川の腕に振り下ろした。

だが、憑依手錠は空を切った。
しまった!!
あせり過ぎて、杉川に身を引かれ、かわされてしまった。
勘付いた杉川は、俺の腕を振り払い、振り向いて逃げ出した。


「野郎!!」

後ろの客席に構えていた女子高生の荒木が飛び出した。
店内は騒然となる。
荒木は客席に登り、パンチラも気にせず、コーナー上のプロレスラーのごとく、空中からタックルをかました。
杉川は床に倒れた。
やったか!?

「お前を逮捕する!!」

荒木は女子高生バックから憑依手錠を取り出し、杉川にかけた。

「えっ…あ、あなた誰ですか!?」

杉川は目を白黒させている。
まさか!!

俺と荒木は同時に空中を見上げた。
そこには、ちょうど窓をすり抜け、外に逃げ出そうとする幽体の杉川がいた。

「ちくしょう!!」

俺たちも幽体離脱して外に飛び出した。


夜の街に飛び出した杉川は、OL→タクシー運転手→風俗嬢→老人→女児…と次々に体を乗り換え、逃走していく。

俺もそれを追い、サラリーマン→トラック運転手→客引き→老婆→女児の母親…と次々と近くの人間の体を借りていった。

街の中で、はたから見たら奇妙なデッドヒートが繰り広げられた。

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