ショート妄想『乗っ取られたもも姉』



「いっけな~い!!」

私が撮影スタジオの階段を降りた頃にはすでに外は真っ暗だった。
腕時計を見ると、すでに8時半を回っていた。

私は来海ももか。
ファッション雑誌で女子高生モデルをやっている。

今日は学校を休んで朝から撮影で、本当は夕方には終わるはずだったんだけど、他の子が急病で、結局私がその子の代役で撮影に入って、こんなに遅くなってしまった。
しかも、いつもは雑誌編集者の人が車で送り迎えにきてくれるんだけど、こういう日に限って今日は別の仕事で来れないとのこと。


ピーピピピ♪

「あ、メール」

妹のエリカからだ。

『おねえちゃんおっそーい!おわびにおみやげ買ってきてね!!』

もーう、エリカったら。
そうだ!たしかこの近くにチーズケーキがおいしいって評判のお菓子屋さんがあったのよね。
いつもは車で送ってもらってるから、なかなか立ち寄れないけど、今日は行ってみようかしら。


幸い小さなメルヘンチックな建物の灯りはまだ点いていた。

「いらっしゃいませ~」

「チーズケーキを2個ください」

「ありがとうございます」


私は店を出た。
だんだん人通りや外灯も少なくなって、ちょっと心細くなってきた。
やっぱり暗い夜道に女一人って危険よね。


その時だった。
ピタッピタッと、後ろから奇妙な足音がする。
サンダルの音でもないし、濡れた雑巾を地面に叩きつけるような音。

ま、まさかストーカー!?

そういえば、出版社に届く私宛ての手紙には、ほとんどは読者の女の子からのファンレターだけど、時々意味不明な文章やストーカーまがいの手紙も送られてくるという。

ど、どうしよう…
で、でも、まだそう決まったわけじゃない。
たまたま同じ方向に帰ってる人かもしれないし。

私は試しに足を止めてみた。
ピタッと後ろの足音も止んだ。

う、うそでしょ!?

やっぱりストーカー!?
私はおそるおそる後ろを振り返った。

な、なにあれ!?



もも姉1



そこにいたのは、人間のものとは思えない姿だった。
体中に奇怪な物体が付いていて、頭のようなところには大きな目がじっとこちらを見ている。
しかも、足らしきものが見当たらない。

ゆ、幽霊…

私は悲鳴を上げようとしたが、体が金縛りのように動かなかった。
幽霊の横では丸くて黒い物が点滅している。

「見つけたぞ、ダークプリキュアの種の適合者…」

ゆ、幽霊がしゃべった…
無機質な男の声。
こ、こわい…
言い返そうにも、口がまったく動かない。

「俺はサバーク博士の助手のアグデグ。お前はこれからサバーク博士の開発したダークプリキュアの種の実験台になれるのだ。ありがたく思え」

ダークプリキュア!?サバーク博士!?何言ってるの!?



幽霊の隣に浮かぶ黒くて丸い物体が私に吸い寄せられるように近づいてきた。
まるでボーリングの玉のように、無限の黒さでどんよりと輝いている。

い、いや、こないで…きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!!!!

玉は私の胸をすり抜け、体に入っていった。


心臓が直接つかまれているように、く、くるしい…

体が痙攣し、手に持っていたケーキの箱が落ちた。
箱の中からチーズケーキが飛び出、道路に散らばった。
そ、そんな…エリカと一緒に食べるはずだったのに……

頭の中がグチャグチャかきまわされてる…
一体なんなの…
どうして私がこんな目に遭わないといけないの…

お父さん、お母さん…エリカ……

そこで私の意識は途切れた。





~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・





俺の名はアグデグ。
今、俺の目の前には一人の女が倒れている。
来海ももか、ダークプリキュアの種の適合者。



もも姉2



透視能力で心の花を見てみる。
たしかに根に黒いダークプリキュアの種が見えた。
投与は成功か。

ダークプリキュアの種は純粋な心の花の中で培養させなければならない。
種が開花するまでには時間がかかる。
その間に自殺でもされたら大変だから、管理しておくか。

俺は来海ももかの体内に入った。
そして、脳神経を支配した。


「す、すごい… 体に何かがこみあげてくる…」(CV:伊藤静)

さっき投与したばかりなのに…もうこんな力が…
そのみなぎっている力がふたをされているように体の中で押さえられている感じだ。
俺の背中から黒い羽が生え始めた。




もも姉3



「ククク… いい体だ……」

「どうやら見つけられたようだな」

「ダークプリキュアか」

闇夜の空から片眼のダークプリキュアが降りてきた。

「だが、まだ不完全のようだな」

「あぁ、まだ変身はできない。生身の人間と変わらん。まだまだ種の効果をこの体に浸透させる必要がある」

「そうか。サバーク博士からの伝言だ。しばらくその体に潜伏し、プリキュア共を監視せよ、と」

「了解した」

俺の返事を聞くと、ダークプリキュアは再び闇夜に消えていった。



さて、来海ももかの記憶を読んで帰るか。
俺は羽を体内にしまった。
二本足で歩くのは久しぶりだ。
俺がピンク色の靴に包まれた足を前に踏み出すと何か踏んづけた。

汚いきつね色のグシャグシャした物。
箱にはチーズケーキと書かれている。

「なんだこんなもの」

俺はそれを蹴飛ばして歩き出した。



(ショート妄想『乗っ取られたもも姉』 おわり)

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