短編『吾輩はワームである』



吾輩はワームである。
名前はまだない。
どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。
気が付くと、暗い森の中で蠢いていた。

吾輩の先祖は7年前に隕石に乗って地球にやってきた。
そして、人間に紛れながら仲間を増やし続けている。
吾輩はその子孫である。

吾輩は体長212cm、体重124kg。
体は硬い外殻で覆われ、全身緑色。
人間から見れば、奇怪な姿に見えるであろう。



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しかし、吾輩は人間に擬態することができる。
擬態すれば外見はもちろんのこと、記憶までコピーできる。


それにしても、ここは一体どこであろうか?
生まれた森を抜けた吾輩がたどりついたのは、木で作られた建物がある開けた場所であった。
遠くてよく見えないが、向こうから大勢の人間の気配を感じる。

「や、やだ…」

と、後ろから人間の声がした。
振り向くと、そこには人間のメスがいた。

「バ、バケモノ…」

人間のメスは吾輩の姿を見るなりすっかりおびえきり、手に持った物を落とした。
ちょうどよい、このメスに擬態しよう。
吾輩は口から溶解液を放った。

「きゃ、きゃあ”……」

人間のメスは泡になってみるみる溶け、地面と区別つかなくなった。
そして吾輩はメスに擬態した。


ピュウウウウウウウウウウ………



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その瞬間、すべての記憶が吾輩の中に飛び込んできた。









私の名前は、菊澤久美、29歳。
○×商事に勤めるOL。
もうアラサーだから今年こそいい人見つけたくて、今日は同僚の典子と麗奈と一緒に婚活パーティーに来たの。

でも、全然いい人見つけられなくて…
気分転換にトイレに行ったら、いきなり緑色のバケモノが現れて…(それは吾輩じゃ)
まぁいい、この姿なら人間にも怪しまれないだろう。


「久美!?」

と、トイレのドアが開き、青ざめた顔の典子と麗奈が入ってきた。

「どうしたの?」

吾輩は慌ててハンドバックを拾いながら聞いた。

「久美がお手洗いに行ったきりなかなか戻ってこないから心配して…」

「ごめん、ごめん、ちょっとメイクが崩れちゃったの(吾輩ながらうまい嘘じゃ)」

「なぁんだ、よかったぁ」

ふぅ、怪しまれずに済んだわい。
まさか本物は死んで、おぬしらの足元のしみになってるとは夢にも思うまい。


吾輩は二人と共にパーティー会場に戻った。
会場では華やかな衣装を着た男女がたくさんいた。

「見て~ あの人イケメンだよね~」

典子が指すほうを見ると、タキシード姿の男がいた。
何人のも女に話しかけられている。

たしかイケメンじゃのう。
だが、あれは吾輩と同じワームじゃ。
しかもうじ虫の。
まったく人間とは外見にコロリと騙される愚かな生物じゃのう。



結局、三人ともいい人を見つけられず、パーティーはお開きになった。

「じゃあね~」

タクシーの中から典子と麗奈が手を振る。

「じゃあまた会社でね~」

吾輩も久美のフリをして手を振り返した。
タクシーのドアが閉まり去っていった。
さて、これからどうするか…
とりあえず吾輩の家に帰ることにするかのう。



すでに陽は沈もうとしていた。
家に向かって、オレンジ色の街を歩いていると、近くからうめき声が聴こえた。
吾輩らワームは普通の人間より耳がいいので、空耳ではない。
「ウーウー」という低い男の声…

吾輩は声がするほうに近づいてみた。
そこはビルとビルの間の暗いじめじめした空間だった。
ゴミが散乱していて、ひどい悪臭がする。

吾輩はスカートの裾をつまみ上げ、ハイヒールの足で先に進んだ。
すると、ゴミの真ん中に人間の影を見つけた。
そこには、破けた茶色いコートと帽子をまとった50代ぐらいのホームレスがいた。

なんじゃホームレスか…
吾輩が立ち去ろうとすると、ホームレスの伸び放題のひげが上下に動いた。


「ま、待ってくれ!わ、わかるぞ、お前もワームだろ!?」

振り返ると、目が合った。
頬は痩せこけ、黒ずんだ顔から目玉だけがギョッとこちらを見ている。
せっぱ詰まった感じであった。

「なんじゃ、おぬしもワームか。そんなところで何しておるんじゃ?」

「あぁ、この男に擬態したのはいいんだが、腹が減りすぎて一歩も動けないんだ。助けてくれ!」

「まったく… そんな姿に擬態するからいけないんじゃ… しょうがないのう…」

吾輩は近くのコンビニで菓子パンとスポーツドリンクを買ってきてやった。
男はそれを受け取ると貪るように食べた。


「ふぅ、助かった。礼を言うぜ」

「まったく… これからもその姿でいるつもりか?」

「いいや、もうこの姿はこりごりだ。どっかいい擬態先知らないか?」

「そうじゃのう…… そういえば、吾輩には咲紀という女子高生の妹がいる」

「そりゃいい!そいつに擬態させてくれ!!」



吾輩は男と共に歩き出した。
といっても、OLとホームレスが一緒に歩くと不自然なので、吾輩が先に歩き、そのあとを追いかけさせた。
やがて二階建ての一軒家が現れた。

”菊澤”と書かれた表札の門を通る。
後ろを振り返り、男が付いてきていることを確認すると、ハンドバックから鍵を取り出し、茶色の扉を開けた。


「ただいま~」

吾輩が声をあげると、奥から「おかえり~」と返ってきた。
妹の咲紀の声だ。
やがてバタバタと階段を降りる音がし、黄色いワンピースを着た咲紀が現れた。

「咲紀、お母さんは?」

「お母さんなら買い物に行ってるよ」

「それはよかった」

「?」

不思議そうな顔をしてる咲紀を前に、吾輩は手招きした。
吾輩の背後からホームレスの男が入ってきた。


「お、お姉ちゃん!誰その人!?」

「新しい”アナタ”よ♪」

「!?」

次の瞬間、男は擬態を解除し、本来の緑色のワームの姿へと戻った。

「いやぁぁ”……」

咲紀は逃げる暇なく、悲鳴ごと溶解液にかき消された。


ピュウウウウウウウウウウ………


緑色の巨体が光に包まれ、収縮していく。
やがて玄関に新しい咲紀が現れた。



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「こりゃいい!やっぱ若いっていいな!!」

玄関にあぐらをかき、自分の体を触りながら喜ぶ咲紀。

「ふふ、そうじゃろう」

「だけど、スカートってなんだかスカスカして落ち着かないなぁ」

「吾輩も最初はそうじゃった。ま、じきになれるじゃろう」


吾輩は風呂場へ行き、服を脱いでシャワーを浴びた。
咲紀はリビングでテレビを観出した。
やがてスーパーの袋を抱えたお母さんが帰ってきた。


「ただいま~ 今日は二人が好きなハンバーグよ~」

「やった~♪」

両手を上げて喜ぶ咲紀。
さっきまでホームレスだったのでよっぽどおなかがすいているのだろう。


お母さんが台所にいる間、吾輩と咲紀はリビングのソファーに二人だけになった。

「なぁ、次はあの母親も俺たちの仲間にしないか?」

吾輩の耳元で咲紀がにやけながら囁く。

「そうじゃのう、家族が仲間のほうがいろいろやりやすいしのう…」

「じゃあ俺、明日2匹仲間を探してくるから。4匹でこの家族を乗っ取ろうぜ♪」

「うむ、それがよい」


「あら、今日はやけに仲がいいのね」

お母さんが夕食をお盆に乗せて運んできた。

「あ、咲紀。あなたの学校の制服、もう乾いてるからね」

お母さんの視線の先を見ると、赤いスカートと青いブレザーの女子高の制服が掛けてあった。

「うん、ありがとうお母さん♪」


手伝いに行く咲紀の後ろ姿を見ながら、明日はどんな家族になるのだろうと期待に胸をふくらませた。




(短編『吾輩はワームである』おしまい)

コメント

No title

おお、カブトのワームネタですか。
ワーム族の擬態能力って、本当凄いですよね。
記憶とかもコピーできちゃうから。
でも、コピーしてからが大変そうですね。
下手に心根が優しい人間をコピーして、そのままずっと過ごしてたら、感化されちゃうしw
やっぱり、適度にスレた人間をコピーするのがいいのかなっと、想像しちゃいますねw
次の作品も楽しみにしています。

No title

擬態いいですね。
放送当時は今日も誰かに擬態しないかとわくわくしていたものですw
当時のワームが擬態した興奮を思い出しました。

No title

>ガオガイガーさん
はじめまして、コメントありがとうございますm(_ _)m
カブトネタが通じてうれしいです(^_^)

そうですね、ワームの擬態能力ってほんとにすごいですよね。
記憶コピーまでできちゃうと、やろうと思えばなんでもできちゃう気がしますw(例えば総理大臣に擬態したり)

そうですね、長く過ごすと感化されちゃうのが怖いですねw
ムーンボウの少年やミサキーヌに擬態したワームのようにww
そういえば、自分がワームだと気づいてなかったおぼっちゃまもいたしwww

久美や咲紀に擬態したワームが男口調なのは、まだ擬態したばかりで、前の姿の口調が残っているという設定です。
いずれ咲紀に擬態したワームは女子高生口調に、久美に擬態したワームはOL口調(?)になっていくと思います。

また擬態ネタを書くかどうかはわかりませんが、応援ありがとうございますm(_ _)m
個人的にはいつかブルースワットのエイリアンネタも書いてみたいですw
インヴェードは憑依に該当するかどうかwww

No title

>しあむさん
はじめまして、コメントありがとうございますm(_ _)m
僕もワクワクして観てました(^_^)

合コンワーム4人組と、ネイティブペンダントで友達に「ウソでしょ…」と気付かれた女子高生ワームが好きですwww

華奢なイマドキの女の子が、突然女の子らしさとまったくかけ離れたどう猛なワームの巨体に変わる姿にギャップ萌えしますよね(^p^)
それ以来、街で女性を見かけると、「あっ、あの娘はワームかも…」と変な発想をするようになりました(笑)

あぁ、自分がワームだったら、次々に美人に擬態したいなぁ。
もしかしたら、自分が気づいてないだけで、実は僕はワームかもしれませんww

おもしろい作品でした。

イラストで擬態を表現出来ていたのが驚きです!
ワーム視点と言うのも素晴らしいです。


やはりワームの擬態はいいですね。
女に擬態してたときは興奮しましたしw


『我輩はワームである』
これはもう、是非とも続編を書いてもらいたいですね!

No title

>な~さん
はじめまして、お褒めの言葉ありがとうございますm(_ _)m
そうですね、自分もインターネットで検索したことあるんですが、ワームの擬態イラストって意外なほどないですものね(笑)
無いなら自分で描けばいい!と、擬態萌えへの情熱で一気に書き上げました(笑)

女に擬態したワームはほんと興奮します(笑)
オシャレしたり、ガールズトークしたり、しおらしく立ってみたり、でもほんとはワームというギャップが(笑)
あぁ、ワームうらやましい…
ワームに擬態したい(爆笑)

『続・吾輩はワームである』構想は、これを書き上げた時から脳内にあるのですが、機会があったらぜひ書き上げてUPしたいと思います(^_^)
久美と咲紀がそれぞれ職場と学校へ仲間を探しに行く話です。

ワームに憧れて

初めまして。拝見させていただきました。最高です笑
カブト放送時、ちょうど中1で、思春期を迎え、それから未だに、毎晩色んな女性に擬態してきました。
そんな自分の妄想がまさに小説化されているようで、もうある意味感動してます。
ワームの中でも、サナギ体が好きで、そんなワームが主役のストーリー。しかし、ホームレスのワームが妹に擬態して、家族がどんどんワームになっていく…。たまりません。
ワーム、特にサナギ体はやられキャラですが、個人的には今でもこの小説のように、密かに暗躍してるのではないかと思ってならないのです。
だから、密かに女子高生たちがワームになっていく学校のストーリーとか、入部したカワイイ子が先輩とかにカワイイわねとか言われて、擬態されて行ってしまうストーリーとか、女装趣味のヲタの主人公に擬態したワームにその思考が残り続けて、あらゆる美女や美少女を殺害、擬態を繰り返すといったストーリーとか書いてくださったらなぁとか思ってるんですが笑…ダメですかね?

No title

>美女擬態希望さん
はじめまして、コメントありがとうございますm(_ _)m
まさか自分と同じような妄想をしている方がいらして驚きましたw
僕もサナギ体好きです♪
擬態されていく学校ストーリーいいですね♪
女性化願望の意識が残って〜という妄想は『俺の妹がワームなわけがない!』という作品でちらりと書いてるのでそちらも読んでいただけるとうれしいです♪

そろそろ続編をお願いします!!!!!

やはり続編を

もう擬態シリーズはとのことでしたが、改めて作品を読ませていただき、続編希望です!!

No title

>10年以上地球人に擬態しているワームさん
いつも応援ありがとうございます!
すみません、続編を望む気持ちは大変うれしいのですが、最近カブト熱が冷めてしまいまして(汗)、現在続編を書く構想も気力も無いのが現状です。
なので、続きは読者のみなさんの心の中でぜひ妄想していただければ幸いです!
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