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不思議な仮面(前編)



俺の名前は福兼 厚(25)。
何の変哲もない平凡なサラリーマンだ。
俺の勤める会社は従業員12名のこじんまりとした会社だ。
主に住宅関係の部品の卸売で生計を立てている。


平日の昼下がり。
外回りを終えた俺は自分のデスクで書類の整理をしていた。
窓からは冬の強い日差しが差し込み、バチバチというストーブの音が聞こえる。

ふわぁ 眠いなぁ~

思わず大きなあくびが出た。
ここのところずっと仕事続きだったからなぁ。
早く家に帰って寝たいなぁ。



「はい、どうぞ」

と、いきなり俺の横からお茶が差し出された。
振り向くと、先輩社員の野々宮 美代さんが立っていた。
野々宮さんは俺より3つか4つ年上の女性事務員で、この会社一番の美人だ。
事務はいつもミス一つなくこなすし、スチュワーデスや受付嬢のような通る声で受付から電話番までこなす、小さなうちの会社にとっては顔のような存在だ。

「あっ、ありがとうございます」

俺はとっさにお礼を言った。

「だいぶお疲れのようね」

「えっ、あっ、まぁ…」

ピンと伸びた鼻筋に、やや釣り上がっているやさしくて気品のある目。
淡いピンクの口紅で彩られたプルンとした唇に、背中まで伸びるサラサラの長い黒髪。
やっぱり野々宮さんは何度見ても美人だなぁ。
気品があって奥ゆかしい日本美人といった感じがする。

「がんばってね」

そう言って野々宮さんはにっこり微笑むと、立ち去っていった。
その笑顔に一瞬心臓がドクンッと高鳴るのを感じた。
ほんと野々宮さんってやさしくて美人で有能で、非の打ち所がない人だなぁ。



「今日も野々宮さんきれいだよな~」

見上げると、平登先輩が遠い目で野々宮さんを眺めていた。
平登先輩は俺の4つ上で、ちょうど野々宮さんと同じくらいの年の先輩社員だ。
やせていて、身長は高く、二重で目が細く、ひざやひじ、手の甲などが角張っている。
俺が入社した時から親身になって指導してくれて、普段はエロくて気さくな感じだが、やる時はやる、俺にとっては頼れる兄貴的存在だった。

「ほんときれいですよね~」

俺も同調した。
今日の野々宮さんは、緑色のワンピースにクリーム色のカーディガンを羽織り、紫色のカラータイツと黒いパンプスをはいていた。
ワンピースの裾から伸びるパープルタイツがセクシーだ。
あのふとももをなで回したい…
肉体が疲れてる時は、性欲がいつもの倍ぐらい高まるのはなぜなんだろう…


「俺今度アタックしてみよかな~」

平登先輩がつぶやいた。

「マジっすか!?俺応援しますよ!」

「冗談に決まってるだろ。だいたい俺と野々宮さんが釣り合うわけないだろ」

「そんなことないっす!お似合いだと思いますよ!」

「こいつぅ。そんなこと言っても何も出ないからなぁ」

そう言って、平登先輩はひじで俺のほっぺをグリグリ小突いた。



「まったく… ほんと男って嫌らしいんだから」

突然後ろから声がして振り向くと、桃子がツンと唇を上げて立っていた。
桃子は俺と同期の女性社員だ。
担当は事務で、俺にとっての師匠が平登先輩だとすると、桃子の先輩は野々宮さんだ。
紺色のOL服に、淡い茶髪は一瞬ポニーテールに見えるが、実は頭の上で結われているだけだ。
背は女子高校生と大差なく、大人な雰囲気の野々宮さんに比べると、顔つきや体型などまだまだお
こちゃまだ。

桃子とは大学が同じだった。
当時はそんなに接点がなく、同じ授業の女子グループの一人といった感じだった。
あの頃から口が悪かったのはよく覚えているが。
正確に言うと同性にはやさしいが、異性には手厳しい。
内定が決まってここでばったり出くわした時はお互いびっくりした。
今じゃお互い”腐れ縁”と言ってるが。


桃子は腰に手を当て、ムッと頬をふくらませ、汚い物を見るような目で俺たちを見ていた。

「よぉ、桃ちゃん」

平登先輩が苦笑いしながら軽く手を上げた。

「なんだよ桃子」

桃子があまりにぶしつけな顔で見ていたので話しかけた。

「今、野々宮先輩を嫌らしい目で見てたでしょ?」

「ちげぇよ。ただきれいな人だな…って」

「それが嫌らしいっていうのよ」

まったく…かわいげのないやつだ。
野々宮さんは仕事はできるけど、ちゃんと男を立てることを知っている。
それに比べ、こいつと来たら…

「あはは… じゃあ俺、今日までに納品しないと行けないのがあるんで行ってくるわ」

そう言って、平登先輩は苦笑いしながら去っていった。
あ!先輩! …逃げたな


桃子はまだ俺をにらんでいた。

「なんだよ、嫉妬してるのか?」

「はぁ?何言ってるの? 野々宮先輩が素敵なのは当たり前じゃない!そんな先輩を鼻の下伸ばして見てるあんたが許せないのよ!」

「んなこと言われても男は美人に弱いんだ。ま、お前も男になればわかるよ」

「死んでも嫌よ、男なんて」

「あいかわらず口が悪いなぁ。野々宮さんの爪の垢でも飲んでもう少しおしとやかになれば守備範囲に入ってくるんだけどなぁ」

俺は遠くの席で背筋をピンと伸ばし、ひざかけをしてパソコンを打っている野々宮さんを横目に言った。

「なにそれ、セクハラだからね!女性蔑視!!」

なんだよ、自分はさんざん男のことを馬鹿にするくせに、ちょっと反論するとすぐにセクハラだの女性蔑視だの。
まったく女っていうのは感情的で自分勝手な生き物だなぁ。



「福兼君!すっぽんを持ってきてくれ!!」

と、その時、トイレから社長の叫び声が聞こえた。
すっぽんというのはトイレが詰まっときに使う吸盤のことだ。

「あ、はい!」

俺は急いで席を立って物置用のロッカーに向かった。
あれ?ないぞ
次に普段は使われていないロッカーを開けてみた。
あった!!
俺はそれを持って急いでトイレに向かった。
トイレの扉の隙間から社長の手が伸びていたので渡した。

「ありがとう」

ふぅ…
俺は開きっぱなしの扉を閉めるためロッカーの前に戻った。
慌てて取り出したため、ロッカーの中の他の物が落ちていた。
俺はしゃがんでそれを一個一個拾い元の位置に戻し始めた。

あれ?なんだこれ?
片付けていると、見たことのない茶色い木箱が落ちていた。
大きさは小さなクッキーの箱ぐらい。
表面はDNAみたいな螺旋の模様が掘り込まれている。

俺はふたを開けてみた。
中には舌が三つ伸び、ふじつぼのような目をした木製の不思議な仮面が入っていた。
仮面と言っても大きさは普通の仮面の半分ほどで、赤ちゃんじゃないとかぶれないサイズだった。
どこかの先住民族が作ったような雰囲気でだいぶ年季が入ってきた。


「いやぁ、さっきは助かったよ。今日のは特大だったんだ。ガハハハ」

豪快な笑い声をあげながら社長がトイレから戻ってきた。

「社長、これはなんですか?」

俺は箱を社長に見せた。
社長は少し箱をのぞいてから「あぁ、それは先代の社長のだよ」と言った。
なるほど、先代の社長の物か。
先代の社長は東南アジア旅行が趣味で、旅行に行っては現地のお土産を買ってコレクションしていたと聞く。

「先代の社長は引退される際に大事なコレクションはすべて持ち帰ったから、それは要らない物じゃないかな。処分しといてくれ」

「捨てるぐらいならもらってもいいですか?」

「あぁ、構わんよ」

俺は早速自分の席に箱を持ち帰り、カバンに詰めた。
別に俺にこういうコレクションの趣味はないが、こういうのが意外にネットオークションやなんでも鑑定団に出したらウン十万ついたりするんだよなぁ。
フフフ…



それから30分くらい書類を作ったりしていたが、睡魔は容赦なく襲い掛かってきた。
昼下がりのちょっとぽかぽか陽気と相まって、何もしなくてもまぶたが落ちてくる。
うぅ… また眠気が…

「野々宮君、ホッチキスの芯が切れた。あとトイレットペーパーも残り少なかったし、○×亭のコーヒーも飲みたいなぁ」

社長の大きな声でハッと気がついた。

「わかりました、買い出しに行ってきます」

俺の半開きの目から、嫌な顔一つせず立ち上がる野々宮さんの姿が見えた。

「あ、私も一緒に行きます!」

野々宮さんについていく桃子。
あぁ、平和だ…
平和が一番……

カクン!とイスから転げ落ちそうになり、慌てて体勢を立て直した。
さすがにこの眠気はやばいな。
夕方まで持ちそうにない。


俺はネクタイを締め直し、カバンを持つと、「ちょっと出掛けてきます!」と慌ててオフィスを飛び出した。
もちろんこれは演技だ。
俺は車に乗り込むと、5分ほど走らせ、近くのショッピングモールの駐車場に入った。
ここの駐車場は学校の校庭ぐらいだだっ広く、しかも平日はほとんど人通りがない。
そして、今俺が停めたこの場所は、駐車場の隅で、運転席側と後部座席側が植え込みに隠され、外からはほぼ見つからない昼寝には絶好の穴場だった。

ふぅ…
俺は携帯の目覚ましを1時間後にセットし、リクライニングを倒し、目にタオルを当てた。
そのまましばらく何も考えずにいたが、眠れない…
どうしてオフィスではあんなに眠いのに、いざとなったら眠れないんだろう…

俺は起き上がり、サイドブレーキの前に置いた缶コーヒーをすすった。
フロントガラスからは遠くに大きな荷物を持った買い物帰りの家族連れが見えた。
気分転換に飴でもなめようかとカバンを開けたら、さっきの木箱が目に入った。
俺はそれを取り出して、もう一度開けてみた。

薄い白い油紙のような包みをめくると、さっきの仮面が出てきた。
やはり不思議な雰囲気の仮面だ。
目の部分を見ていると引き込まれそうになる。
裏面はどうなってるのか気になって持ち上げると、箱の下に折り畳まれた紙があるのを見つけた。
だいぶ年月が経っており、茶色く変色し、ところどころカビが映えている。
開くと、英文が書かれていた。
文字の線が途中で区切れており、30年ぐらい前にタイプライターで打った感じだった。

えっと… なんて書いてあるんだ?

そんなに長い英文ではなかったので、わからない単語を携帯の辞書で引いて、解読を試みた。

ええと… 『これは恋わずらいのためのものです これを胸の上に置いて 好きな人のことを想うと 一つになれます』…

「ぷっ!」

俺は思わず吹き出してしまった。
こんな神秘的な雰囲気なのに、書かれてることは女子高生のお守りみたいだったからだ。
いつの時代、どこの国の人でも考えることは同じなんだなぁ。


まぁ、せっかくだし、やってみるか。
俺はもう一度シートに寝て、胸の上に仮面を置いた。
好きな人かぁ… 最近仕事ばかりで恋する暇なんてなかったからなぁ。
小学生の頃好きだった明子ちゃん、大学の頃付き合ってた奈月、最近流行りの48人にいるアイドルグループ…
いろいろな女の子の顔を頭に浮かべてみたが、いまいち実感が沸かなかった。
もっと身近な人… そう、野々宮さん…
今日も野々宮さんきれいだったなぁ…
あのセクシーなふとももを自分の物にできたら…

おっ、エロいことを考えていたら、ちょうどいい具合に眠気がやってきた。
意識が朦朧とし、ほら目の前に自分の寝顔が……
って寝顔がっ!?

な、なんでだ!?
目の前に寝ている自分がいる!
ち、違う、俺が浮いてるのか!
信じられないが、俺はガスのように軽くなり、空中に浮いていた。

そのままふわりとひっぱられ、車の天井をすり抜けて外に出た。
地面から10mぐらいのところを俺が空中浮遊している。
ど、どうなってんだこれ!?
俺は手足をじたばたさせて動きを制御しようとしたが、何者かにワイヤーで引っ張られるかのように特定の方向に引き寄せられた。

俺の体は駐車場を抜け、歩道に出た。
何人か買い物客が見えた。

「た、助けてくれ!!」

俺は大声で叫んだが、全然聞こえてない。
それどころか俺の姿が見えてないようだった。
ど、どうなってんだ一体!?

と、急に引っ張られつつ、高度が下がってきた。
その先にはショッピングモールの正面ゲートがあり、あの後ろ姿は…野々宮さんだ!
買い出しに行った野々宮さんが立っているのが見えた。
そして、俺の体は一直線に野々宮さんに向かって吸い込まれていった。

「あ、危ない!ぶつかる!!」


バコンッ!!と音はしなかったが、体が大きく揺れた。
気がつくと、俺はショッピングモールの入り口の植え込みの前に立っていた。
野々宮さん!?
俺は辺りの地面をきょろきょろしたが、誰も倒れていなかった。
おっかしいなぁ、たしかに野々宮さんとぶつかったはずなのに…

ん?なんだこれ?
ふともものところにひらひらしてるのが見える。
俺はそれをつまみあげてみた。



papuru_up.jpg



なんだ緑色のスカートか。
その先には紫色のカラータイツに、黒いパンプスと…
って誰の足だこれ!?
お、俺の足じゃない!でも俺の足だ!!

しかもそれだけじゃない。
俺はクリーム色のカーディガンを着ていて、胸は盛り上がり、手前には赤い紐リボンが見えた。
手足は細くなり、肩には長い黒髪がかかっている。



papuru_up2.jpg



「ど、どうなってるんだ一体…」

自分の口から出た声を聞いてさらに驚いた。
高くてきれいな受付嬢やスチュワーデスみたいな声…
この体、この声… 間違いない……

俺が野々宮さんになってる!!



papuru_main.jpg



俺はワンピースの裾を持ち上げてみた。
そこには普段絶対見られない野々宮さんのふとももの奥が見えた。
俺は右手でそこをこすってみた。。

「な、ない!!」

25年間苦楽を共にしてきた俺の相棒が無い!!
あったのはカラータイツのこすれるつるつるとした感触だけだった。
ほ、本当に俺が女に… 野々宮さんになってしまったのか…
夢かと思ってほっぺをつまんでみたが、痛くて指先にメイクの粉がつくだけだった。

一体どうしてこんなことに…
そうか… さっきの仮面のせいか…
一つになるって結ばれるってことじゃなくてこういうことだったのか…
まさかツタンカーメンのような呪いの仮面だったんじゃないよな…



「せんぱ~い!」

と、後ろから声がして振り向くと、桃子がこっちに駆けてきた。
手にはトイレットペーパーや買い物袋を持っている。
し、しかもあのいつもつっけんどんの桃子が俺に笑顔を振りまいてる!?

「ごめんなさい、お待たせしてしまって。寒くなかったですか?」

「あっ、あぁ」

俺は桃子の勢いに思わずのけぞった。

「先輩…?」

桃子は俺の下半身をじっと見てる。
見ると、俺の紫色の脚は思いっきりガニ股になっていたので慌てて閉じた。

「どうかされたんですか先輩?」

「ううん、なんでもない、なんでもない」

そう言って俺は苦笑いした。
桃子まで俺のことを野々宮さんと認識しているということは、やっぱり俺は野々宮さんになってしまったのか…

「うふふ、もう先輩ったら♪」

そう言って桃子は口に手を当てて笑った。
普段は見せない表情に一瞬ドキッとした。
あれ?桃子ってこんなにかわいかったっけ…?



「それじゃあ戻りましょう」

「え、えぇ」

俺は桃子の雰囲気に圧され、一緒に歩き始めた。
と、歩き始めた俺たちの前に一人の男が現れた。

中肉中背のグレースーツを着た見慣れた男…
見慣れたも何も、俺だ!俺がいる!!
もう一人の俺は驚いたように目をまん丸くして俺を見ていた。
その瞳や立ち方から、俺は一瞬でわかった。

  野々宮さんだ!!

ということは、俺と野々宮さんの中身が入れ替わってしまったのか…


「野々み…」

「なんであんたがこんなところにいるのよ!!」

俺が野々宮さんに話しかけようとした瞬間、隣の桃子がすごい剣幕で突っかかっていった。

「ち、ちがうの… 桃子ちゃん…」

俺の姿をした野々宮さんは両手を口に当てて面食らっていた。

「キモッ!気安くちゃんづけしないでちょうだい!! さては仕事さぼって遊んでたんでしょ。社長に言いつけてやるから」

うわっ、なんていう憎まれ口だ…
しかもその対象は桃子の尊敬している野々宮さんだというのに…


「行きましょ、先輩」

そう言って桃子は俺の手を引いて、わざと俺の姿をした野々宮さんと目を合わせないようにズンズンと進んでいった。
俺はそれに引っ張られざる得なかった。
何せ桃子の筋力はいつもの倍ぐらいあったからだ。
いや、俺の筋力が落ちたというべきか…

すれ違いざまに俺は野々宮さんの耳元にささやいた。

「後から連絡しますから」

野々宮さんは一瞬ハッとしていたが、すぐに俺のほうを振り向き、真剣な表情で首を縦に振った。
これは大変なことになってしまったぞ…
桃子の細い腕に引っ張られながら、今後どうなってしまうのか案じた。


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