短編『待ち合わせ』



俺は川辺の芝生の斜面に寝転がり、空を見上げていた。
青い空は最高だ。
嫌なことも何もかも、あの広い空に比べればちっぽけに思える。

俺は「う~ん」と背筋を伸ばした。
ブラジャーに胸が圧迫される感覚。
ナース帽が取れそうになったので慌ててかぶり直した。

体はだいぶ疲れていた。
何もしなくてもまぶたが落ちてくる。
やっぱ看護婦さんって夜勤とかいろいろ激務で大変なんだろうなぁ。
俺はサンダルを脱ぎ、白タイツに包まれた足先をこすり合わせた。


「よっ」

俺が空を見上げてると、視界に女が入ってきた。
茶髪にイマドキのパッチリメイクをした女。
白いカットソーに、黒のフリルミニスカート、それに黒タイツをはいている。
右手にはたこ焼きを持ち、ニヤリと笑みを浮かべていた。



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「なんだよお前、ナースに乗り移ったのかよ」

初対面の女は親しげに話しかけてきた。

「あぁ、ほら川の向こうに病院が見えるだろ。あそこの看護婦の体借りたんだ」

「勝手に借りていいのかよ」

「いいんだよ。ちょうど夜勤明けで帰ろうとしてたとこだったから。お前こそその体は女子大生か?」

「おうよ、そこの女子大の寮にいた奈緒子って女の体借りたんだ。どうだかわいいだろ?」

そう言って女は自分のミニスカートをつかみあげ、中身を見せてきた。

「やめろよ、下品だなぁ」


俺は立ち上がり、ナース服についた芝生を手で払った。
白タイツについた芝生はしつこくてなかなか落ちなかった。

「そんな服で寝そべるからだよ。それにしてもお前がナースフェチだとは知らなかったなぁ」

そう言って女はもぐもぐと最後の一個のたこ焼きをほおばった。

「別にフェチってわけじゃないよ。ほんとは携帯屋のお姉さんに乗り移ろうと思ってたんだけどさぁ、上から見てても仕事抜け出せる雰囲気じゃなくて。そしたらたまたまこの体を見つけて」

「そのナースも災難だなぁ」

「その女子大生もな」


俺たちは二人並んで歩き始めた。

「なんて呼べばいい?先輩?お姉ちゃん?お姉様?姉貴?」

「フツーに上の名前でいいよ。そっちのほうがコーフンするんだ」

「じゃあ…」

女は俺の胸についたバッチをのぞきこんだ。

「西村さん♪」

「なぁに奈緒子ちゃん♪」

「私、女子校にずっと通っていたから、だんだん男の人が苦手になってきたんです…」

「あら…それは大変ね。男性恐怖症かもしれないわね。大丈夫、私が治療してあげるわ♪」

「本当ですか!?やった!うれしい!!」

「さあ、行きましょう!!」

私は奈緒子ちゃんの手を取ると、一緒にホテルに入った。



(短編『待ち合わせ』 おわり)

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