『入れ替わった僕らの物語』 第一話




第一話 「階段落ち」




僕の名前は陽田 つよし(20)
風見院大学文学部二年。

長い大学の夏休みが終わり、大学構内には気だるい空気が漂っていた。
今日は朝8時に起き、電車に乗ってこの一限目の教室に来た。
だだっ広い教室に人はまばらだった。

あくびを噛み殺しながらカバンからテキストと筆箱を取り出す。
ポケットから携帯を取り出し、着信がないことを確認してからマナーモードした。
だが、それを終えると授業開始まですることがなく、ボーッと教室の様子を眺めていた。


一分くらい経った頃だろうか、背後からカツカツ・・・という音が聞こえた。
ヒールの高い女の子の靴音だ。
思わず横目で視線を伸ばす。


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そこに彼女はいた。
彼女の名は長月 ゆり。
一言もしゃべったことはないけれど、僕と同じ学年・学部で、同じ授業で見かけることが多かった。

長いロングストレートの日本美人のような黒髪が特徴で、今日は白いタートルネックに黒のフリルのミニスカートをはいていた。
胸元には十字架のペンダントが輝き、足元は黒いニーソックスとパンプスがよく似合っている。
他の女子と比べても断然美人のほうだった。


ほんとかわいいよなぁ・・・


僕は心の中でつぶやいた。
僕が彼女のことを気になってるのはかわいいだけでない。
毎回毎回服装が自分のツボを突いてるのである。
それに性格も控え目で、自分とよく似ていて、学部も学年も同じ。
つまり、学校に必ず一人はいる"もし自分が女の子だったらああなっていただろう女の子"それが彼女だった。

僕は昔から周りの子供と比べても大人しいほうで、外でみんなで遊ぶより家で一人で遊ぶほうが好きだった。
気が弱くて自分から積極的に行くよりは慎重に何もしないタイプで、おそらくマスコミに言わせれば草食系男子ということになるだろう。
だから僕は時々女の子がうらやましかった。

控え目な性格は、男だと臆病や意気地なしになるが、女だと謙譲の美徳になる。
家で一人で本を読むのも、男だともっと外に積極的に出なさいとなるが、女だとそこまで言われないし、むしろ大人しくて品があると言われたりする。
僕は車にも酒にもギャンブルにも興味なかったし、要するに僕の男らしくないというデメリットは、もし僕が女だったらメリットとなり、もっと生きやすかったということだ。
だから僕は"つよし"という自分の名前もあまり気に入ってなかった。



今日も長月さんはあやのちゃんと一緒に来ていた。
あやのちゃんはピンク系のかわいい服で来ることが多く、童顔と相まって子供っぽく見えた。


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二人が僕の横を通り過ぎた。


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ふわりと長月さんのスカートが揺れ、
絶対領域が垣間見れた。


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長月さんの胸は形が良くって、きっと脱いだらもっと大きいと思う。
わずかだが女の子らしい匂いが漂ってきて、この匂いをずっと吸えたらいいのにと思った。
カツカツ・・・という靴音が遠ざかっていく。


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後ろ姿もきれいだなぁ

長い清流のような黒髪が朝陽を受けて輝いていた。
二人は教室左やや前方の席に、いつものように二人で座った。


「よっ!」

突然後ろから肩を叩かれ、ビックリした。
振り向くと、そこに大樹が立っていた。

「なにビビってるの?」

大樹がムカつく口調で言う。

「ビビってないよ」

大樹は頭より先に手が動くタイプで、僕とは性格も価値観も対照的だったが、なぜか学校とクラスは小学校からずっと同じだった。
腐れ縁ってやつだ。

大樹は茶髪をライオンのように立て、着崩した服にアクセサリーをジャラジャラと付けていた。
噂によると、大学に入った大樹は水を得た魚のようにバイトやサークルを掛け持ちし、毎晩のように飲み会や合コンをはしごしているらしい。
大樹が最大限大学生なら、僕は最小限大学生だった。


大樹は僕の肩にひじを掛け、長月さんの方向を見ながら言った。

「あの子狙ってるの?ダメダメ、俺が何度声掛けてもダメだったから」

当たり前だ

と心の中で突っ込んだ。
長月さんは大樹みたいなお調子者にホイホイ付いていくような尻の軽い女なわけがない。

「そんなんじゃないから」

と僕は答えた。
その時、教室の入り口のほうからギャルっぽい女の声がした。

「大樹ー 今夜のライブのことなんだけどー」

「あー いま行くー ま、せいぜいがんばれよ」

大樹はそう言って僕の肩を叩き、教室から出ていった。
いちいちムカつくやつだ。
なんでこんなやつと貴重な学生時代を過ごさなきゃいけないんだ。
でも、長月さんが大樹の誘いを断ったと聞いて、心の奥底でどこか安心した。


授業が始まり、板書しつつも、やはり前方の席の長月さんが気になった。
長月さんはきれいな姿勢で板書するたびに黒い髪がかすかに揺れ、それがとても品があってきれいだった。
長月さんは隣のあやのちゃんと消しゴムの貸し借りをし、「フフッ」という感じで微笑むのが見えた。

いいなぁ~

そこには男は逆立ちしても入れない、女の子だけの絶対領域が生まれていた。


授業が終わり、長月さんたちが前方のドアから立ち去るのが見えた。
僕も次の教室に移動しなければ。
次の近代文学の授業は通称"お経読み"と言われ、丸眼鏡をかけたお爺ちゃん先生が教科書を棒読みするだけの授業だったので、居眠りしているやつもいれば、携帯をいじってる女子もいた。
隣の席のやつなんか机の下で堂々とPSPをしてる。
そんな中、長月さんだけは真面目に授業を聞いているのが印象的だった。


昼休みに入り、学食でラーメンをすすり、最後の4限の社会統計学の授業を終えて校門を出た頃には5時半を回っていた。
校門から駅へ向かう道には、うちの大学の生徒が列をなし、反対側の歩道には仕事帰りのサラリーマンやOLの姿が見えた。

さて、家に帰ってゲームでもするか。

オレンジ色の夕日に照らされた帰り道を歩きながら、一日の授業を終えた解放的な気分の中で、さっきから何か頭に引っ掛かるものがあった。

何か忘れているような・・・あ!今日はレポートの提出日だった!!

この前、古典の授業でレポートを出し忘れ、今日の6時までに教授の研究室まで持ってくるように言われていたんだった!
出さないと、結構単位に響く。

ポケットから携帯を取り出し、時間を見ると5時50分だった。
ダッシュすればまだ間に合う!



僕は全力疾走で来た道を逆走し、再び校門をくぐった。
そして、教授棟の建物に駆け込む。
エレベーターがあるが、教授の部屋は4階なのでこういう時は階段のほうが手っ取り早い。
階段をところどころ2段飛ばしで駆けて行った。

あともうちょっとだ!

その時だった。
3階から4階に向かう踊り場に差し掛かった時、目の前に人が現れた。


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「きゃっ!」

それは長月さんだった。
だが、足元ばかり気に取られていた僕は気づくのが遅れ、思いっきりぶつかってしまった。

「あっ!」

慌てて体勢を立て直そうとしたが、僕の上に長月さんが乗っかってきて、完全にバランスが崩れた。


「きゃあぁぁぁっっっ!!!」

「うわあぁぁぁっっっ!!!」

視界が二転三転する。
あろうことか僕らは一緒に階段を転げ落ちてしまった。
床に投げ出され、一瞬意識が飛んだ。



「いててて・・・」

後頭部がズキズキする。
結構強く頭を打ってしまったみたいだ。


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はっ!長月さんは!?

心配になり、体を起こした時、僕は自分の体の異変に気づいた。

あれ・・・?なんで僕が女物の服を着ているんだ・・・!?


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胸はふくらんでいて、腰にはひらひらのミニスカートをはいている。

顔を上げてさらにビックリした。
目の前に自分自身がいたのだ。
そっくりさんとかいうレベルじゃなくて、服も髪型も何もかも同じ人間が。

「えっ・・・わ、私!?」

目の前の僕も僕の姿を見て驚いている。

そういえば今僕が着てる服には見覚えある!
長月さんの物だ!!

僕が長月さんの服を着ていて、目の前の僕が僕のことを"私"と言ってるということは・・・

ま、まさか!!


「「入れ替わってるーー!?」」


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(第一話おわり 第二話につづく)


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