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『入れ替わった僕らの物語』 第三話




第三話 「詮索」






僕は今・・・長月さんの布団に寝ているんだ・・・

男と違い、胸がふくらんでいるため、うまく仰向けになることができない。
体が布団と直接触れている部分は絶対領域だけなので、否応なしにそこを意識してしまう。
体全体がふんわりしていて、それが布団の甘い匂いと相まって、まるでおとぎ話のお菓子の家にいるような気分になった。

いつも長月さんはこんな風に感じているのかぁ・・・

今日の夕方までは遠く眺めるしかなかった存在の長月さんになって、彼女の部屋にいる・・・
常識ではありえない現象を今僕は体験している・・・

これは非常事態なんだ・・・

と頭ではわかっていても、心のどこかにうれしさがあった。
もし体が入れ替わるなんて、こんな超常現象が起きなければ、長月さんとしゃべることもなかっただろうし、ずっと彼女を眺める日々を送りながら、卒業の日を迎えたかもしれない。
不安、喜び、興奮、焦燥・・・いろんな感情が交ざって、僕は呼吸が苦しくなった。



「ゆり~ ごはんよ~~」

そうやって布団の上でまどろんでいると、一階から長月さんのお母さんの声がした。

「はぁ~~い」

怪しまれたらまずいので、とりあえず返事をして一階に降りた。
リビングは木目の新しい広間で、食卓とカウンターキッチン、それに大型テレビが置かれていた。
食卓の上にはすでに料理がいくつか並べられ、向かいの席には長月さんのお父さんが新聞を広げて読んでいた。



ireboku3_1.jpg



他人の家の食卓にお邪魔するなんてただでさえ緊張するのに、それをその家の娘として参加しないといけないなんて・・・
長月さんのお母さんはキッチンから料理を運んでいた。
髪は後ろでまとめられ、赤い口紅が印象的だった。
長月さんからは専業主婦って聞いていたので、鮮烈な口紅に少し違和感を持った。

「いただきます」

やがて、長月さんのお母さんも席につき、晩ご飯が始まった。
ずっと一人暮らしだったので、こうやって大勢で晩ご飯を食べるのは久しぶりな気がする。

長月さんのお父さんが新聞を下し、顔が見えた。
長月さんのお父さんはらっきょうを逆さまにしたような輪郭で、目が鋭く、昔見たロボットアニメの敵司令官に似ていた。
たしか不動産をやっているって言っていたなぁ。

なんだかこう、長月さんとの結婚が決まって初めて彼女の実家で食卓に参加しているような、そんな妄想が頭をよぎった。
セオリー通りならこのあと談笑して、お義父さんと一緒に酒を酌み交わすんだよなぁ。
まさかこんな形で長月さんのご両親とお会いするなんて夢にも思わなかった。


とりあえず箸をつけなきゃ。
今日のメニューはご飯、味噌汁に煮っ転がしとサラダという極めて家庭的な料理だった。
おそるおそる箸をつかみながら、じゃがいもを口に運ぶ。

お、おいしい!

正直見た目はあまりおいしそうに思わなかったけど、食べてみると意外においしかった。
この体がこの味付けになれているというのもあるだろう。


「今日学校から成績表が届いたんだけど、今期も全科目取れていたわよ♪」

隣に座る長月さんのお母さんがうれしそうに言った。

「ほぅ、そうか」

ビールジョッキをテーブルに下しながら長月さんのお父さんがそう答えた。
強面の顔つきは変わってないが、少し頬が緩み、うれしそうに見えた。

“今期も”ってことはいつも取れてるのか!
いつも長月さん真面目に授業聞いてるもんなぁ。
うぅ・・・落とした単位のことなんて思い出したくない僕と全然違う・・・
さすが長月さんだ。
なのに褒められるのは僕って悪い気がする・・・


長月さんのお父さんが僕のほうを向き、真剣な顔つきで言った。

「ゆりももう二回生だろう。そろそろ本格的に就職のことも考えないといけないぞ」

「う、うん」

僕はうつむきながらそう答えた。
長月さんの将来・・・想像がつかない。
思わずOLの制服を着て事務仕事をしている長月さんを想像してしまった。
うん、悪くない。
長月さんならどんな職業に就いても様になりそうな気がする。

でも、他人事じゃないんだ・・・
もしこのまま元に戻れなかったら、僕が長月さんの代わりに就職しないといけない。
一生に関わることを僕が決めないといけないなんて・・・そんなことにならなきゃいいんだけど・・・


その後、隣のお宅の中学生の息子が進学塾に入ったとか、テレビの討論番組の年金の話題とか、世間話が続いた。
僕は早くこの場から逃げ出したかったけれど、早く食べると「はしたない」と叱られそうで、早く食べたいんだけど食べられないジレンマを抱えた。
もう後半は砂を噛んでるような気分だった。

「ごちそうさま」

「あら、今日はおかわりしないの?」

お、おかわり!??

長月さんって意外に大食漢だったんだ・・・
意外な一面を知ってしまった・・・



リビングを出て、自分の部屋に戻ろうとすると、後ろから長月さんのお母さんの声がした。

「お風呂沸いてるから先に入っちゃいなさい」

「はぁ~~い」

って答えたけど、お風呂!?
あわわ・・・お風呂・・・お風呂・・・///
お風呂のことをすっかり忘れていた・・・///
ど、ど、どうしよう・・・//////
女の子の矜持に関わるから長月さんに連絡したほうがいいよね・・・


僕は部屋に戻るとすぐに携帯を開いた。
かわいいウサギの待ち受け画面が自分の物ではないことを改めて意識させた。
そして、長月さん――って言っても自分の携帯番号だけど――に電話を掛けた。

「もしもし」

何度かの呼び出し音の後、長月さんが出た。

「あ、僕だけど・・・」

「陽田君?」

よく自分の留守録の声を聞くと気持ち悪いって言うけど、まさにそれだった。
しかもそれがリアルタイムで自分が考えていないことをしゃべっている・・・


とりあえず僕は帰ってきてから今までの出来事を順に話した。
長月さんは無事僕の家に帰りつけたようだ。
そしてお風呂のことを切り出そうとすると、いきなり長月さんのほうから「ごめんなさいっ!!」と切り出してきた。

「どうしたの?」

「実は・・・さっきおトイレ行かせてもらいました・・・///」

憧れの長月さんが僕の体でトイレに・・・
ってことはチャックを開けて・・・僕のアレを見ちゃった?もしかして触っちゃった?
そう思うと恥ずかしさと共になぜだかちょっとうれしかった。

・・・って何言ってるんだ僕は!!
ってかそんな風に恥ずかしそうに言われるとこっちまで恥ずかしくなるじゃないか///

「い、いいよ、生理現象なんだから」

「ほんとごめんなさい・・・」

「気にしてないから! それよりさっきお母さんからお風呂に入るように言われたんだけど・・・」

「えっ」

そこで長月さんの声が止まった。
数秒の気まずい沈黙・・・


「あの・・・それは遠慮してもらえますか」

だよねー
やっぱり見ず知らずの男の人に自分の裸を見せられるわけないよねー

「その代わり、明日一番で私の部屋まで来てもらえますか?」

「わかった」

「あっ、それとメイクは落としてください。洗面所にメイク落としがあるので・・・」

「うん、わかった」

「それでは///」

「じゃあ///」

お互いぎこちない感じで通話は終わった。

向こうも変わりないようでよかった。
まぁ、一人暮らしだから他の人に気を遣う必要がないのは不幸中の幸いだ。
隠した同人誌、見つからないといいんだけど・・・



さてと、メイクを落としに行くか。

僕は再び部屋を出て、一階に下りた。
リビングの前を通り過ぎる時にチラリとのぞいてみると、長月さんのお父さんはおつまみを食べながらテレビを観ており、お母さんは食事の後片付けをしていた。

僕は洗面所に入った。
白い床と壁の、洗濯機とお風呂へ続く脱衣所があるいたってオーソドックスな洗面所だった。

メイク落とし、メイク落としっと・・・

洗面所付近を探してみる。
これは歯磨き粉だし、これはお父さんのシェイビングクリームだし・・・あった!
シャンプーみたいなボトルに入ったメイク落としを見つけた。
それをプッシュして手に取り、鏡を見ながらつけてみる。


ireboku3_2.jpg



鏡には当然長月さんが映っている。
こうやってじっくり長月さんと向き合うのは初めてかもしれない・・・
少し口元を緩ますと、鏡の中の長月さんが笑顔になった。
か、かわいい//////

ダメだ、ダメだ、僕の目的はメイクを落とすことなんだ。
僕はメイク落としを目頭や頬に塗りこんでいった。
絵具を溶かすように、赤みがかったオレンジ色のメイクが泡になっていく。
最後に水で顔を洗うと、完全にメイクの取れた長月さんが現れた。

元々長月さんのメイクは濃いほうじゃないので、メイク前と大差ないけど、女の子のすっぴんを見てしまったという罪悪感は残った。

自分の部屋に戻る際に母親に「今日は風邪気味なのでお風呂はやめておく」ことを伝えた。
母親は「大丈夫? どうりで今日はいつもとちょっと違ったのね・・・」と心配していた。
「うん、一晩寝ればよくなるから」と答え、僕は階段を上り始めた。



「ふぅ・・・」

自分の部屋に戻ってきた。
どうもピンク色の壁やクリーム色の床は落ち着かない。
周りは女の子の小物ばかりだし。

とりあえず、この恰好のまま寝るわけにはいかないよな。
着替えなきゃ。
着替え・・・着替え・・・着替えはどこにあるんだろう?
ここかな?



ireboku3_3.jpg



洋服棚にはワンピース、スカート、チュニック、シャツ・・・いろいろな長月さんの服が掛かっていた。
いつも長月さんはここから洋服を選んでいるのかぁ。

あ!このチュニック見たことあるぞ!
前に大学で着てたやつだ!!

自分の記憶力に我ながら気持ち悪くなる。
これじゃまるでストーカーじゃないか・・・
いつも彼女を見掛けているうちに、特に彼女が自分の好きなタイプの服を着ている時は印象に残っていた。
それが今、目の前にある・・・

ピシッとしわが伸ばされ、ハンガーに掛かっている姿は、まるでしわをつけてくださいと言わんばかりで、ドキッとした。
匂いを・・・匂いを嗅ぐだけならいいよね・・・
僕はチュニックの裾に顔をうずめた。



ireboku3_4.jpg



これが長月さんの匂い・・・
やさしくて清潔感があって、心地よかった・・・

あぁ、長月さん大好きだよ・・・

はたから見たら、超ナルシストだろう。



違う、違う、こんなことをしに来たんじゃない。
着替えを探さなきゃ。
僕はしゃがんで洋服棚の下の引き出しを開けた。
すると、そこにはピンク色の布があった。

「なんだこれ?」


ireboku3_5.jpg


パパパパパパパンツじゃないかぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!

開いてわかった。
と同時に心臓が飛び出しそうになった。

なななななな長月さんのパンツが・・・あわわ・・・
ここここれは刺激がつつつつ強すぎる・・・・・・

だが、僕の理性とは正反対に、体が勝手に動き出した。
ややややめろ!そんなことはやめろ!!!!


ireboku3_6.jpg


気がつくと、僕はパンツをかぶっていた。

「んご!!」

理性が本能に負けた瞬間である。
ややややめろ!!
これじゃあ変態仮面じゃないか!!
清純な長月さんに変なことさせるな!!

だが、僕の理性とは裏腹に本能は止まらなかった。
本来長月さんの大事なところが触れている部分が今僕の鼻に当たっている・・・
こうなると人間不思議なもので、次にこの状況に理由付けを始めた。

これは長月さんのパンツで・・・

僕は今長月さんなんだ・・・

だから・・・

自分のパンツなんだから恥ずかしくないもんッ!!


まことに立派な論理だが、完全に言い訳に過ぎなかった。


「ふおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



ireboku3_7.jpg




ireboku3_8.jpg




(第三話おわり 第四話につづく)



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